CRAFTMAN INTERVIEW

日本製のビーチサンダル作りに
賭ける情熱。

日本製のビーチサンダル作りに情熱を燃やす、株式会社 TSUKUMO の中島 広行(なかじま ひろゆき)さんにインタビュー。九十九を立ち上げたきっかけをはじめ、ビーチサンダル作りへのこだわり、さらには未来へ向けた想いを伺いました。

Hiroyuki NakajimaPROFILE

株式会社TSUKUMO代表。日本製ビーチサンダル専門店「九十九」を経営。一時失われた日本製のビーチサンダルを復活させた第一人者。国内外のアパレルメーカーをはじめ、スポーツやイベントとのコラボレーションなど多数の実績を持つ。日本から世界へ、九十九ブランドを広げていくことが目標。

日本製のビーチサンダル

復活させたい

ビーチサンダルに関わってもう20年になりますが、実は社会に出て最初からビーチ サンダルが好きで仕方ないというわけではありませんでした。きっかけは、たまたま 前職のお店が海水浴場のすぐそばにある「よろずや」で、海水浴のシーズンになると ビーチサンダルを扱っていたのですが、お客様からの評判も良く品揃えを増やしてい くうちに、ちょっとしたブームとなりました。

ビーチサンダルの歴史は戦後の1950年代に神戸で誕生したと言われており、四季の ある日本発祥の履物ですが、当時は日本でビーチサンダルを作っているところはなく 海外製ばかり。調べてみると阪神淡路大震災で工場が被災したことや人件費の高騰、 海水浴に行く人が年々減少するなどの理由が重なり、90年代半ば以降、海外に生産 拠点が移っていました。そこで、「日本発祥の産業を、もう一度日本で復活させた い!」という想いから、日本製のビーチサンダル専門店「九十九」を立ち上げました。

流行に左右されないもの
を作り、
ブランドとなる
こと

日本製のビーチサンダルを作るにあたり、ブランドと呼べるプロダクトを作りたいと考えました。海外の工場ではメーカーからの発注を受け、その年の流行のデザインのビーチサンダルを生産するのが普通です。しかし、同じことを日本でしてしまってはブランドと呼べるものを生み出すことはできません。そこで、九十九では昔の日本製のデザインを踏襲した、流行に左右されないビーチサンダルを作っています。例えば、子供が去年18cmで今年は20cmになり、履き替えようとしても同じものが無いということはありません。流行を追わないことに勇気もいりますが、基本のデザインは変えず同じものを作り続けています。

日本製らしく、
履きやすさにこだわる

ビーチサンダルは構造自体シンプルですが素材を使い分けています。台(ソール)は合成ゴムなのでクッション性が良く、鼻緒は柔らかい天然ゴムを使っているので、足の指の間に当たっても痛くなりづらいという特徴があります。さらに、日本人特有の甲高な足の形を意識した形状にし、足の入れやすさも考慮しています。また、小ロットでの注文や特注品の対応など、細かいオーダーができるのは日本の工場だからこその強みと言えます。今回のビーチサンダルも台に牛革を貼り合わせる特注品ですが、職人さんと細かくやり取りし、一つひとつ手作りしてもらいました。

製造工程では、
職人さんの経験と技が
生きる

九十九のビーチサンダルは製造方法も昔のままです。台は合成ゴムの大きなシートを職人さんが手作業で足形に切り抜いていくのですが、気候によってゴムが変化するので神経を使います。シートは合成ゴムをプレスする金型から外したときは熱く、取り出したとき一瞬膨らみます。寒い季節は一晩で熱が冷めて安定したシートになりますが、暑い季節だと熱が抜けきらないので二晩寝かします。また、鼻緒は十本分塊で出来てくるので、一本ずつハサミで切り離していくのですが、跡を残さず綺麗に切り離さないと足の指の間で引っかかり、履き辛さを感じさせてしまいます。ちょっとした凹凸が足にしっくりくるかどうか変わってくるので、切り離しも職人さんの技が生きる作業です。

色んなシーンで履いて、
何シーズンも使って
ほしい

ビーチサンダルは海水浴で使うというイメージがありますが、日常使いのサンダルとして使うこともできるほか、スリッパ代わりに室内履きとして使ったり、飛行機など長時間の移動の際にシューズから履き替えてリラックスするといった用途もあります。また、最近流行のデイキャンプに持って行って履くなど、意外と幅広い楽しみ方ができます。お手入れの仕方は、海水浴で使ったなら、軽く水洗いして塩抜きしてから陰干ししてください。鼻緒の天然ゴムは陽に弱いので、直射日光が長時間当たるところに置かないのもポイントです。大事に使えば何シーズンも持ち、ゴムが沈んで自分の足形になって馴染んでくるので、だんだんと愛着を感じてくるはずです。

九十九ブランドを
世界に広げ、
これからも続く産業に
育てたい

一度は衰退した日本製を復活させ、日本のビーチサンダルでは初のブランド「九十九」の名を、世界に広げていく挑戦を続けていきたいと思っています。その背景には、日本にビーチサンダル作りの文化が根付き、工場の職人さんの息子・娘さんが後を継いでくれるような産業に育てていきたいという想いがあります。九十九だけが上手くいくのではなく、協力していただいている多くの人たちが誇りを感じられる産業にすること。それこそが、九十九の役目なのではないかと考えています。