TRADITIONAL CRAFTS
COLLABORATE PROJECT #1

株式会社パノラマでは、この夏、
日本三大うちわのひとつである「房州うちわ」を作りました。
伝統の技を受け継ぐ職人さんと共に、
一つひとつ丁寧に心を込めて作った房州うちわ。
古き良き夏の風情を感じるのはもちろん、ひと扇ぎすると、
柔らかく心地よい風が顔や首筋を撫でていきます。

房州うちわの特徴

21もの工程は全て職人の手作業

明治時代にはうちわの一大生産地として、文献にも名が刻まれている「房州うちわ」。地域で採取できる女竹(めだけ)を使うその生産工程は21にも細分化されており、全てにおいて伝統を受け継いだ職人さんの技が生きています。

房州うちわの「弓」と「窓」

持ち手の丸柄も房州うちわの特徴ですが、その上部に開いた穴に差し込まれ、円弧状になっている竹串(弓)を作る「弓削(ゆみすげ)」の作業や、弓を差し込んでうちわを形作る「窓作り」は職人技の見せ所。特に弓削は難しく熟練の技が要求されます。

DESIGN CONCEPT

と、
やかにれる

描かれたデザインは、夏の空を気ままに流れゆく雲がモチーフ。
白い和紙に白いインクでデザインしているため、角度を変えると光の
反射によって雲ように見えたり、水面のように見えるなど、
その表情が変化します。和紙は薄く軽いものを選ぶことで、
夏の暑さをふっと忘れるような軽やかな風をイメージ。
また、街歩きのお供になれるようにと考え、どんなファッションにも
合わせやすい白を基調に黒のワンポイントを施しています。

INTERVIEW

使えば使うほど、
わいがくなる

宇山 正男(うやま工房)

うちわ職人の技とこだわり、
そして想いを紐解く。

伝統ある房州うちわを製作した職人、宇山 正男(うやま まさお)さんにインタビュー。うちわ職人となるきっかけから、房州うちわの特徴、こだわりのポイント、そしてご自身が作ったうちわへの想いなどを伺いました。

他にはない工程の多さに、
面白さを感じた

私は昭和6年(1931年)に生まれ、2017年5月7日で86歳になりました。この道に入ったのは第二次世界大戦が終結した年です。当時の房州にはうちわ屋さんが50軒ほどあり、仕事を探していた私は「うちわ作りも面白いかな」という気持ちで工房に入り修業を始めました。

最初は丸亀うちわの工房で修行を積み、その後、房州でうちわを広めて地域の一大産業へと発展させた第一人者である、岩城 惣五郎(いわき そうごろう)さんの三代目が務める工房でお世話になりました。そこで知ったのが工程の多さで、私が最初に修業を積んだ丸亀うちわは8工程、高価なものでも10工程ほど。しかし、房州うちわは21工程もあり、うちわ作りの奥の深さを感じました。

扇風機が普及しだした昭和45年頃を境に、房州のうちわ屋さんはどんどん廃業し減ってしまいましたが、21もの工程を経て初めて完成するところに面白さを感じた私は、自分の工房である「うやま工房」を作り、今でも房州うちわを作り続けています。

うちわに適した竹になるまでにも
時間と手間がかかる

うちわに使う竹は、この地域に自生する女竹(めだけ)を使っています。竹は国や県、個人が所有する山に自生しているものを譲ってもらうのですが、切るのは毎年10~12月の期間だけです。

それ以外の時期の竹は水分を吸って柔らかくなっているため、うちわには適しません。切ったら皮を剥いて乾燥させて、うちわ用に割き始めるのは正月から3月いっぱい。一年分の材料を仕込むので数が多くとても大変です。

房州うちわならではの
「窓」を見てもらいたい

房州うちわは「窓」が特徴です。丸亀うちわは基本、持ち手となる柄が平らなため竹を割いてそのまま骨を開いても平らに広がります。京うちわも骨に和紙を貼ってから柄を取り付けるため、骨を平らにする手間はあまりかかりません。

一方、房州うちわは丸柄で一本の木で作るため、そのままでは骨が上下に暴れて平らになりません。そこで糸を使って骨を編み、柄に開けた穴に竹串(弓)を差し込んで編み終えた糸の両端を結び、円弧状にしなった弓とともに窓が出来ていき、さらに火で焼くことでやっと骨が平らになって見た目も美しい「窓」が完成します。骨は大きいうちわで大体62本、小さいもので40本程度。綺麗な窓を作るにも手間がかかります。

最も難しい弓作りも含め、
21工程全てが手作業

作業工程上、最も難しいのは「弓」を作ることです。弓のしなりはうちわを支える船底であり、しっかりしなっていないと指を掛けて扇いでも、うちわ自体がよく曲がらず扇ぐ力も出ません。しかし製作時、弓を上手く削らないと曲げたときにしならず簡単に折れてしまいます。

房州うちわの工房が50軒あった当時でも、弓を上手に作ることができる職人さんは4、5人程度しかいませんでした。竹は中が柔らかく外皮の部分は鉄のような堅さがあるため加工がとても難しいのです。

私は長い間弓作りをしており、今でも1日に3,000本ほど削りますが、うちわ作りで使う刃物は全て刀鍛冶屋さんに頼み、地金の堅い鍛えられた鋼を使っています。そうすることで、内と外で肉質が違う竹の柄に弓を通す穴を開けるときも、綺麗に開けることができます。また、竹の質も一本一本違うため、綺麗に穴を開けるのも糸を編むのも人の手のほうが早い。今でも21工程全てを手作業で行っているため機械は一切使っていません。

見えないところの工夫にも、
目を向けてもらえたら嬉しい

丸柄は中の肉を取って柳を詰めています。柳は春からお彼岸の間までに皮が剥けるので、その期間に切って乾燥させておきます。それを柄の中に詰めて穴を塞ぐのですが、穴を塞ぐ際にはマネキンやひな人形を作るときにも使う、貝殻の粉である胡粉(ごふん)に膠(にかわ)を溶かして糊状にしたものを塗って柄に栓をします。

そしてしばらく乾燥させた後、仕上げに漆を塗れば柄の底の部分が完成します。普段うちわを使っているときには誰も気にしませんが、そういう見えないところにも工夫を施しています。

味わいのあるうちわに
育てていってほしい

房州うちわには窓があるので、そこに指を入れて扇ぐことができるほか、一本の竹で出来ていて丈夫なため、昔は火おこしに用いるなど生活のあらゆる場面で使われていました。

少し前にも巣鴨から93歳になるおばあさんが私のところへ昔のうちわを持ってきたことがありました。骨を数えたところ62本あり、そこから知人に頼んで調べてもらい「うやま工房」へ辿り着いたそうです。見たら何十年も使い古されボロボロでしたが、竹は綺麗な飴色になっており味がよく出ていました。

房州うちわの風は柔らかく、竹によっても骨の数が微妙に違うため、扇いだときの風の感じもうちわごとに違います。そして何十年も使うと竹の風合いが変わってくるので、ぜひ使い続けて味のあるうちわへと育ててもらいたいと思っています。

宇山 正男(うやま まさお)

1931年5月7日生まれ。約70年にわたりうちわ職人の道を歩んでおり、現在は自身で立ち上げた「うやま工房」にて、房州うちわを製作。21もある製作工程を全てこなせる唯一の職人。平成23年(2011年)には国から伝統工芸士に認定され皇室から叙勲を受けた。今もなお機械に頼らず全てのうちわを一つひとつ手作業している。